京都日誌(443)
■8月20日、木曜日、積乱雲ある晴れ。夕方の6時半から8時頃まで激しい夕立。
午前中、掃除、洗濯、身心調整。午後から、六本木の仕事。
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7月29日に、アンソニー・ファウチNIAID(国立アレルギー感染症研究所)元所長が、上院国土安全保障・政府問題委員会の公聴会に召喚されて以降、いろいろなことが表に出てきている。また、この問題は、様々なことを考えさせる。
ざっくり、言うと、この問題は、新型コロナウイルスの起源を明確化しようとする政治勢力と、それをあいまいなままに押しとどめようとする政治勢力の戦いの場を構成している。
明確化しようとしているのは、共和党側で、中でも、ケンタッキー州選出のランド・ポール上院議員が中心となっている。
あいまい化しようとする政治勢力は、アンソニー・ファウチ元所長と、そのバックの民主党側、特に、バイデン前大統領を中心とした政治勢力である。
なぜ、あいまい化しようとするのか、と言えば、ファウチ氏の刑事責任を問うことで、米国(特に民主党)のコロナウイルス生成への関与が明らかになる可能性を封じたいからである。
それは、米国の国際的な責任問題、巨額賠償問題につながる。
このあいまい化のための究極の手段が、バイデン前大統領が退任直前の2025年1月20日にファウチ元所長へ与えた予防的恩赦である。
これは、ファウチ元所長を刑事訴追から防御するように見えながら、その恩赦の本質は、米国の国家賠償責任をあいまい化することだった。
では、逆に、ランド・ポール上院議員やトランプ大統領を筆頭にした共和党の目的はなにか。
そもそも、ランド・ポール議員やトランプ大統領など、共和党が、この問題を明確化しようしているのは、ひとつの社会条件が存在するからである。
それは、2014年に、この武漢ウイルス学研究所に、ニューヨークのエコヘルス・アライアンスを経由して資金提供したときの政権が、民主党のオバマ政権で、それを決裁したのが、ファウチ元NIAID所長だったという事実である。
その上で、中国に、この新型コロナウイルス生成の責任を全面的に着せしめて、国家賠償に持ち込むことが成功すれば、米中覇権争いで、大逆転になる。
この責任転嫁の傾向は、第2次トランプ政権のホワイトハウスから発信された、新型コロナウイルス起源に関する情報に色濃く出ている。
ここでは、新型コロナウイルスの起源を、武漢ウイルス学研究所からの漏洩としている。その根拠は、5つである。
1.ウイルスには、自然界では見つかっていない生物学的特徴がある。
2.データ上、全症例は人間への単一の導入に由来する。これは複数の動物―人間間伝播が起きた過去のパンデミックとは異なる。
3.武漢には、中国で最も重要な重症急性呼吸器症候群(SARS)研究施設である武漢ウイルス研究所があり、不十分なバイオセーフティー水準で機能獲得研究を行ってきた。
4.武漢ウイルス研究所の研究者が、海鮮市場でCOVID-19が確認される数ヶ月前の2019年秋、COVID-19様の症状を発症していた。
5.自然起源を示す証拠が存在するなら、科学的にはすでに発見されているはずだが、発見されていない。
ここで言っている、単一導入説というのは:
重症急性呼吸器症候群(SARS)では、ハクビシンなどから人間への感染が複数回起きたと考えられている。中東呼吸器症候群(MERS)でも、ヒトコブラクダから人間への感染が繰り返されている。
だが、新型コロナの場合は、感染動物(あるいは研究所漏洩ウイルス)から人間への感染が一回だけ起こり、その感染者から人から人への感染が広がって、世界的流行になった、というモデルを、トランプ政権は採用している、ということである。
単一導入説を明確に述べている査読論文は、たとえば、上海の復旦大学生命科学学院・ヒト表現型研究院のJia-Xin Lvらの2024年の『COVID-19流行初期における多様な新型コロナウイルス変異株の進化経路』がある。
この研究は、初期の系統A、系統Bなどを含む23万1,163件のウイルスゲノムと、上海の初期患者から得た配列を解析している。
著者らは、初期に複数の系統が併存していたものの、それらの間には「進化上の連続性」があると結論づけている。
論文は次のように述べる。
「したがって、A0、A、B0、Bを含む既知のすべての新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、共通の祖先ウイルスに由来するようにみえる。この祖先ウイルスは、二回または複数回の人獣共通感染ではなく、一回のスピルオーバーによって人間へ入った可能性がある」。
さらに、米国ジョージア大学統計学科のJ. Yangらによる、2023年の査読論文『種合祖理論が示すCOVID-19パンデミックのコウモリおよびセンザンコウ起源の可能性』は、「種系統樹は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が人間への単一の導入によって発生した可能性が高いことを示している」と結論している。
逆に、2022年7月22日に『Science』に発表されたジョナサン・ペカーらの研究や2022年7月26日に『Science』に発表されたマイケル・ウォロビーらの研究のように、「複数導入」を示す研究もある。
中国は、2025年6月のWHOの専門家グループSAGOの調査において、実験記録や研究者の健康記録、初期患者の配列データなどを一切、提供していない。
これは、ファウチ元所長が7月29日の公聴会で、111回も証言拒否したのと同じか、それ以上に不誠実な対応である。
この新型コロナウイルスの起源に関して、科学的な真相解明を、中国と、民主党─ファウチ元所長が、共同で妨害している、という構図なのである。
こういう構図が創られる理由は一つしかない。
それは、米中二ヶ国によるパンデミック発生責任の可能性を完全に排除したい、ということである。
表面的には、お互いに責任を擦り付け合っているものの、事態の完全なるあいまい化をめざすという点では、米国民主党と習近平の中国は一致している。
この、あいまい化戦略に好都合なことには、上記の研究が示すのは、中国側の武漢ウイルス学研究所の初期データが、たとえ提供されても、起源を特定する決定的なエビデンスにはならないのではないか、ということである。
現時点での、自然科学的な、そして、広範囲な社会調査を含む社会科学的な、真相解明の手段の限界が、政治的な、共同あいまい化を許しているように思える。