京都日誌(457)
連邦雇用庁によると、ザクセン=アンハルト州では、外国籍住民の就業率が過去10年間で、約31.1%から54.9%へ上昇している。ドイツ人の就業率も約6ポイント上昇して66.6%となっているが、外国籍住民の伸びのほうが大きくなっている。
ザクセン=アンハルト州で反移民政策が支持される理由の一つは、移民の増加が非常に急だった点がある。
同州の外国籍人口は、2015年で、約8万3050人だったが、2025年には、約19万2155人と、10年間で約10万9100人、2倍以上に増えている。2025年の主な外国籍集団は、ウクライナ人約3万8950人、シリア人約2万9165人、ポーランド人約1万4415人である。
外国人が少なかった旧東独地域では、絶対数が西部より少なくても、短期間の変化として強く意識されやすい。
反発は外国人の「多さ」だけではなく、「急に増えた」という変化の速度から生じていることがわかる。
変化の速度という点は、日本におけるインバウンド急増の変化の速度の問題として、外国人排斥や反移民の背景にある感情と似ている。
第二に、ザクセン=アンハルト州では、人手不足と失業が同時に存在するということが反移民政策が支持される理由となっている。
州の失業率は8%台だが、医療・介護・技術職などでは人材が不足している。これは、失業者の資格と企業側の求人が一致しないため。
しかし、有権者から見れば、「地元に失業者がいるのに、なぜ外国人を受け入れるのか」という疑問となる。技能のミスマッチという複雑な問題よりも、「移民より自国民を雇え」というAfDの説明のほうが単純で、理解されやすい。
問題の複雑さを単純化するのは、集票のための基本的な社会操作の一つである。この社会操作は、AfDに限らず、たとえば、ウクライナ紛争の単純化など、リベラル政党も含めて、一般的に見られるが、問題の複雑さを単純化して移民に原因を集約していくことに、最大に問題がある。
この点は、トランプ政権や日本の参政党も同じベクトルを持っている。
そして、もっとも、重要な点は、移民問題が治安問題と結びつけられている点である。
これは、AfDの2026年州政権公約は、移民を犯罪や重大事件と直接結びつけている。特にマクデブルクのクリスマス市場襲撃事件を取り上げ、「加害者はとっくに国外退去させられているべきだった」と主張している。
9月8日付『ターゲスシャウ』の分析によると、AfDは州政権公約で「文化的に異質な大量移民」を終わらせるとして、50項目以上の措置を掲げている。ただし、その約3分の2は州政府の権限では法的に実行できないと分析されている。
移民が怖い、という感情は、理性的な問題分析や数字の提示によって、ある程度は、抑えられるが、感情は理性よりも圧倒的に強い。特に、恐怖の感情はそうである。
安倍政権のときの茶番劇だったJアラートとそれに関連した言説は、国民の恐怖感情を政権支持に利用した典型的なものだった。
だが、こうした恐怖感情は、劣ったものでもなく、下に見るべきものでもなく、社会的現実である。
恐怖感情こそ恐怖なのである。強く盲目的な社会的エネルギーだからだ。関東大震災後の朝鮮人らの日本人市民による虐殺は、この恐怖感情が、どのように生まれ、そのように増幅され、どのように利用されたのか、をよく示している。
これに匹敵するのは、アイデンティティという感情だろう。
どちらも、強い社会的エネルギーを持つため、政治的に利用されてきた。
恐怖感情とアイデンティティ感情という自然な感情を政治利用するのが、AfDや参政党、自民党などの国家主義政党の大きな特徴と言えると思う。端的に言って、これらの感情を利用して、統合を図るのが、国家という存在の特徴とも言える。
そのときの手法の大きな特徴が、単純化である。複雑な事態を単純なストーリーに還元して動員力を高める社会操作の手法である。その典型的なものが、特定国家や移民集団、人物の悪魔化である。
★なにがAfDを勝たせたのか?
AfDは、住宅不足、社会保障費、学校の混乱、犯罪、人手不足、医療不足などを移民政策と結びつける。問題ごとの複雑な原因を説明するのではなく、「大量移民を止めれば改善する」という一つの物語を提供している。
世論調査会社インフラテスト・ディマップが、2026年9月6日の州議会選挙の投票日、およびその数日前に行った調査が、たいへん興味深い。
これは、有権者にAfDの能力について、聞いているのだが、その能力評価は、上位からこうなっている。
ここに、ザクセン=アンハルト州の有権者の不安と不満がもっともよく出ている。
「犯罪対策」がトップなのである。これは、現実として、移民による凶悪犯罪が多いのか、そのようなナラティブなのかは、また、治安問題がどのように社会的にフォーカスされているかにも、注目すべきだが、現時点で有権者の恐怖感情が大きくなっていることは確かである。
次に、注目されるのは、「東ドイツの利益:36%」である。ザクセン=アンハルト州が旧東独として、ドイツ全体の中で、取り残されていると感じている有権者が多い点は、あらゆる問題の背景として、たいへん重要だろう。
AfDは、ロシア制裁の解除を政策として掲げている。
ドイツのエネルギー価格上昇に伴う経済問題は、安価なロシア産ガスが入ってこないことが直接の原因であるから、ロシアと仲良くしようというAfDの政策は妥当である。
「経済:30%」、「エネルギー供給:30%」、「雇用:29%」というAfDに対する能力評価は、ロシアとの関係改善を中心に評価されていると思われる。
西側諸国は、恐怖感情と、それを利用した軍需産業上の利益から、一貫して、ロシアを悪魔化してきたが、その社会操作を、AfDは免れている。AfDが悪魔化しているのは、もっぱら、移民集団である。
この社会操作の免疫と社会操作の実施という、AfDの二重性は、ともに、集票力として強力に機能している。
★AfDとイスラエル
ちなみに、AfDは、2023年時点で、シオニスト政党と言ってもいいくらいの親イスラエル政党であることをアピールしている。
9月7日付の『ユディッシェ・アルゲマイネ』が、イスラエル国内の反応をこう報じている。
たいへん興味深いので、長いが以下に引用する。
「イスラエルでも、ザクセン=アンハルト州議会選挙におけるAfDの、驚くべきものではあっても意外ではない結果に反応が起きている。現在の選挙結果では、この極右政党は44%近くを獲得し、それによってドイツの一つの州で初めて最大勢力となった。イスラエルのメディアでは、この問題が詳しく論じられている。
たとえばニュースサイト『Ynet』は、AfDの成功を『歴史的な地滑り的勝利』と呼び、イスラエルのある高官の、『同党は、根本的にドイツにおけるユダヤ人の生活を危険にさらす極右政党である』という言葉を引用した。
とりわけ問題なのは、AfDが今ではドイツ最強の政党である一方、イスラエルが依然として同党と公式な関係を維持していないことである。さらにAfDは、イスラエルに対する武器禁輸を支持していると、その高官は『Ynet』でさらに述べ、『彼ら(AfD)は、われわれ(イスラエル)の味方ではない』と総括しました。
路上で無料配布される政府寄りの日刊紙『イスラエル・ハヨム』は、『ドイツは新たな現実のなかで目を覚ました』と書き、AfDの台頭がイスラエルとユダヤ人にとって何を意味するのかという問いを、同様に提起している。
歴史家アリエル・フェルドシュタインによる同紙の論評には、イスラエルはこのドイツの選挙がもたらすジレンマを無視することはできない、とある。
『何年ものあいだ、ドイツの政治的周縁の一部と見なされてきた政党は、もはや周縁の政党ではない』。彼はAfDに対するイスラエルの見方を、両義的なものとして、次のように描写している。『彼らは過激なイスラムと闘い、イスラエルを支持し、われわれに説教することはめったにない』。
同時に彼は警告している。今日では、イスラム教徒の移民が『他者』であり、それは多くのイスラエル人にとって理解できることだろう。『しかし、ある社会が、誰が本当にそこに属するのか、誰がその社会にとって異質なのか、誰がその社会のアイデンティティーを脅かすのかを決め始めるやいなや、ユダヤ人には細心の注意を払って耳を傾ける十分な理由がある』。
それゆえフェルドシュタインは、AfDをめぐるイスラエルの議論にとって中心的な問いを提起している。
『イスラム教徒に対する敵意から生じるイスラエル支持は、われわれがこの政党の世界観のほかの諸要素に目を閉ざすのに十分なものなのか?』。
最後に彼は、『イスラエルは、目先の利害が90年の記憶を消し去ることを許してはならない』と明言している。
経済誌『グローブス』の分析は、これよりも明らかに冷静なものである。同紙は、AfDが10月7日以降、それまでのイスラエル支持から距離を置き、今ではドイツからイスラエルへの武器輸出の停止さえ要求していると強調している。
したがって、この選挙での成功は、ドイツの国内政治上の出来事であるだけでなく、『イスラエルを不安にさせる勝利』でもある。
『エルサレム・ポスト』は、別の側面に光を当てている。ウルリヒ・ジークムントは、『急進的な政党に親しみやすく現代的なイメージ』を与えることに成功したと、この保守系新聞は書き、選挙運動の象徴となった『シムソンのモペッドによる大規模走行』(※)に言及している。
※「シムソンのモペッドによる大規模走行」とは、AfDが選挙運動の一環として開催した、旧東ドイツ製のシムソン(Simson)社製モペッドを連ねて走る集団ツーリングのこと。モペッドとは、小型エンジンを備えた原動機付き自転車・小型オートバイである。シムソンの「シュヴァルベ」や「S51」などは、旧東ドイツを代表する車種で、現在も東部ドイツでは郷愁を呼び起こす「文化的象徴」となっている。
しかし、シムソンはユダヤ人一家によって創業され、その所有物はナチスによって収奪された。『創業者の子孫は、AfDによるこのブランドの使用に抗議し、同党によるその政治的利用を、自分たちの家族の歴史に対する嘲弄と呼んだ』。
現政権の連立与党がザクセン=アンハルト州の選挙結果について公式にはコメントしなかった一方で、この関連において注目に値するのは、与党リクード所属のアミハイ・チクリ・ディアスポラ問題相の姿勢である。彼は欧州の右派政党との対話を提唱しており、AfDに対しても差異を考慮した姿勢を示している。