往還日誌(372)

 







■1月4日、日曜日、快晴。

きのう原稿を提出したので、きょうは、ゆっくりした。

一般社会操作論の流れで、18日締め切りの原稿は、構造操作を扱うことにした。国家と追悼をテーマとして、構造操作としての靖国神社を書くことにした。

朝、晴れたので洗濯と掃除、風呂の掃除。

夕方、ジムへ。かなり混んでいた。

家族が、都内へ外出して、DEAN & DELUCAのスコーンを買ってきてくれた。

始めて食べたが、かなり美味だった、スコーンの概念が崩れるような。


きのう、トランプ政権が、ベネズエラを空爆。

その間、マドゥロ大統領夫妻を米陸軍のデルタフォースが拘束して、ニューヨークへ移送。

裁判を受けさせるという。

ベネズエラについては、米国は主権国家ベネズエラを一方的に空爆し、明白な国際法違反だとして批難する言論と、トランプ政権を擁護する言論が対立している。

あまり、眼に触れないトランプ擁護論には、たとえば、次のようなものがある。

「ベネズエラのマドゥロ大統領は不正選挙で独裁権力を手にし、豊富な石油資源を活かさず、ギャングと麻薬で国民に極貧を強いている。

まず世界各国はマドゥロを責めるべきであり、速やかに民主的な選挙を行い国家再建を支援する必要がある。トランプは悪くない」

両方の議論とも一理ある。

つまり、両方とも、部分的な真理がある。

なので、できるだけ、この空爆拉致事件の全体性を回復するような議論が望ましいと思う。

どこから、議論を始めるのかが、重要だが、ベネズエラが国家統治上の深刻な問題と直面するようになったのは、いつからか、という問題設定を行うと、米国の制裁が始まった時期だと考えられる。

そのきっかけは、2015年3月9日のバラク・オバマ大統領による大統領令「ベネズエラ情勢に寄与する特定の者の資産凍結および入国停止について」である。

このときの制裁は、個人レベルの制裁だった。

ただし、オバマ大統領は、「国家非常事態宣言」を、この大統領令の中で発出している。

これは、意味が分からないものである。

オバマ大統領の大統領令は、以下の宣言で始まる。

「合衆国憲法およびアメリカ合衆国の法律によって大統領として私に付与された権限に基づき、すなわち、国際緊急経済権限法(50 U.S.C. 第1701条以下)(IEEPA)、国家非常事態法(50 U.S.C. 第1601条以下)(NEA)、2014年ベネズエラ人権および市民社会防衛法(公法113-278)(以下「ベネズエラ人権防衛法」または「本法」という)、1952年移民国籍法第212条(f)項(8 U.S.C. §1182(f))(INA)、ならびに合衆国法典第3編第301条に基づき、

私、バラク・オバマ、アメリカ合衆国大統領は、

ベネズエラにおける状況、すなわち、

  • ベネズエラ政府による人権保障の侵食

  • 政治的反対派の迫害

  • 報道の自由の制限

  • 反政府抗議に対する暴力の使用

  • 人権侵害および人権侵害行為

  • 反政府抗議参加者の恣意的な逮捕および拘束

  • さらに、これらを悪化させている重大な公的腐敗の存在が、アメリカ合衆国の国家安全保障および外交政策に対する異常かつ特別な脅威を構成すると認定し、この脅威に対処するため、ここに国家非常事態を宣言する

よって、以下を命じる。(後略)」。

この国家非常事態は、ベネズエラが国家非常事態なのではなく、ベネズエラが人権侵害や政府反対派の迫害、報道の自由の制限などを行っているので、米国が国家非常事態だという宣言なのである。

しかも、ベネズエラの人権侵害や反政府抗議に対する暴力の使用などが、(米国にとっての)脅威だと明確に定義している。

非民主的な政権の暴力が事実であったとしても、軍事力でも、経済力でも、政治力でも、米国を遥かに下回るベネズエラに対して、それを米国の脅威であり、国家非常事態だと宣言するのは、明らかに不合理である。

このように、他の諸国にもあるベネズエラの内政問題を、わざわざ、このタイミングで、自国の非常事態とするロジックには、裏があると考えるのが自然だろう。

それは、米国のすぐ南の南米に位置した国家でありながら、米国に経済的にも政治的にも依存しなくても済む資源(石油)を持ち、社会主義を標榜する、米国からの独立国家を崩壊させ、「民主主義国家」という旗の下、米国の完全な従属国家に改変するプロジェクトの開始だったと見るべきである。

このオバマ大統領が行った米国の国家非常事態宣言が、のちに、重要な意味を持つ。

国家非常事態宣言は、これが宣言されると、他の法律に埋め込まれている非常権限が一斉に有効化されるのである。

しかも、それは、この宣言が解除されるまで有効。

国家非常事態宣言で有効化された法律のうち、もっとも、重要なのが、オバマ大統領が最初に掲げた、国際緊急経済権限法(50 U.S.C. 第1701条以下)(IEEPA)であり、経済制裁の根拠法となっている。

たとえば、

外国政府・企業・個人の資産凍結やドル決済・送金の遮断、米国人・米企業との取引全面禁止、国債・社債・新規借り入れの禁止、第三国・第三者に対する二次制裁などが可能となる。

オバマ大統領が根拠とした、国家非常事態法(NEA)と国際緊急経済権限法(IEEPA)をセットで用いると、上記の他国への経済的攻撃が、議会承認なしで、大統領権限だけで実行できるのである。

国家非常事態宣言とは、このように、経済攻撃稼働スイッチと言っていいのである。

オバマ政権の国家非常事態宣言を、好意的に見れば、非民主的な国家に対する懲罰を与える条件を、国家非常事態宣言で作ったとも言えるが、そうだとしたら、上から目線の極めて傲慢な内政干渉であるし、そもそも、自国で人権が実現されていないのに、他国における人権や民主主義の実現のために、米国の政権が、自国が国家非常事態にあると宣言するほど、お人好しのはずがない。

その後のトランプ政権の経済制裁を見れば、オバマ政権は、ベネズエラという国家に対して経済戦争をしかける道を開いたと言える。

オバマ政権では個人レベルだった制裁が、ベネズエラの国家全体に拡大されたのは、2017年の第一次トランプ政権からであり、そのときの根拠は、オバマ政権の国家非常事態宣言である。

2017年金融制裁・2019年石油制裁は、すべてIEEPA §1702 が法的根拠になっている。

2017年金融制裁は、ベネズエラ政府・政府系企業(特に国営石油会社 PDVSA)が米国市場で新たな借金・社債・国債を発行することを禁止した。また、ベネズエラ政府が保有する企業株式の売却・譲渡を禁止した。また、一部のベネズエラ国債・PDVSA債については、米国人による売買を制限した。この結果、債券価値が大幅に下落。

要するに、2017年の金融制裁は、マドゥロ政権の資金調達を断つため、ベネズエラ政府・政府系企業の金融・資本市場へのアクセス遮断したのである。これは、今も原則として続いている。

2019年の石油制裁の具体的な中身は、

・米国内にある PDVSAおよび関連会社の全資産を凍結

ベネズエラ産原油を購入しても代金を政府・PDVSAに支払うことを禁止。支払われた場合、凍結口座に隔離

・米国企業・米国人との取引全面禁止

石油輸出に不可欠なドル建て決済、海上保険、タンカー仲介の禁止

・これらに関与した第三国企業も二次制裁の対象

Executive Order 13850 (2018年11月1日)
Executive Order 13857 (2019年1月25日)
Executive Order 13884 (2019年8月5日)

この結果、ベネズエラでは、国家歳入の約9割を占める石油収入が急減、燃料不足 から 発電・物流崩壊、食料・医薬品輸入が困難化、国連報告でも人道危機を著しく悪化させた要因と指摘されている。

これは、紛れもなく、ミサイルを使用しない国家破壊である(現在は、全面遮断ではなく制裁を維持したまま、期限付き・条件付きで一部を緩和している)。

ここでは、トランプ政権が、安全保障上の問題と主張するベネズエラの麻薬取引において、因果関係が逆転していることがわかる。

上記のような2015年以来の経済戦争で、マドゥロ政権は、経済基盤を失い、その代替としての資金源として麻薬ビジネスを行い、このプロセスで、政権の統治能力は失われていき、汚職の蔓延を招き、政権維持のため権威主義的な政体化・独裁化を、ますます強化していったと見るべきではないか。

このように、10年以上かけて、米国は、民主党のオバマ政権が撒いた国家非常事態宣言という種を用いて、共和党のトランプ政権が経済戦争をしかけて、ベネズエラの政権転覆を画策し、実行に移した、と言えるのである。

つまり、2026年1月3日の米軍のベネズエラ空爆と、マドゥロ大統領夫妻の拘束・NY移送の前史は、2015年から始まっていると見た方が現実的なのである。

2015年の時点で、ベネズエラという国家の統治能力を破壊させるという目的が、米国のベネズエラ政策にはっきりと仕込まれたと考えることができる。

ここには、あれだけ、民主党を嫌い批判・反発してきたトランプ政権が、オバマ政権と南米での国益において、完全な一致を見ていると言える。

これは、対抗的相補性の典型事例だろう。

2015年以来の米国の国家目的は、1月3日に、マドゥロ大統領夫妻の拘束とNY移送で、ほぼ達成された。

今後のベネズエラの展開が注目される。

問題は、この目的達成の南米における影響だろう。

南米でも米国に近い、メキシコ、キューバ、コロンビア――このうち、米国はキューバに関して国家非常事態を宣言し、それを毎年更新している。反米的。この3ヶ国の中で、もっとも中国・ロシアと結びつきが強い。

コロンビアを拠点とする大規模麻薬密売人を理由にした米国の国家非常事態は、原則として「国家(コロンビア政府)」には制裁を課していない。政府は、反米的。トランプ大統領は、コロンビアのグスタボ・ペトロ大統領をコカイン製造機を所有し、大勢を殺したと非難している。

メキシコについては、メキシコ国家に対する非常事態ではなく南部国境の国家非常事態(移民・麻薬・フェンタニル)が発出されている。政府には、摩擦はあるが、経済は米国と深く統合されている。反米にはなりきらないと思われるが、米国に近く、ドラッグ問題と移民問題を抱えているので、注目される。

こう見ると、オバマ政権とトランプ政権が、一致する21世紀型のモンロー主義において、米国の政権交代希望が最も強いのは、キューバと思えるが、ベネズエラのように攻撃すれば、中ロとの全面的な戦争になりかねない。

これ以外には、左派政党「社会主義運動(MAS)」による政権が続いているボリビアがある。

ボリビアには、国家非常事態宣言は出ていないが、天然ガスや鉱物(近年はリチウム)を国家が主導的に管理し、社会政策に回している。

ボリビアでは、選挙は実施され、政権は選挙で選ばれる。複数政党制・議会・憲法裁判所が存在し、軍政や一党独裁ではないので、オバマ―トランプの政権転覆フォーマットは、通常なら、機能しないないだろうと思われるが、なにか、起きるかもしれない。

ニカラグアは、キューバと並んで、最も反米的な国家。トランプ政権からすれば、転覆させたい国家だろう。非民主的・麻薬という理由付けが、できるのかどうか?

非民主的・人権弾圧は、問題化できるかもしれないが、麻薬国家は難しいだろう。

キューバとメキシコ、ベネズエラ、コロンビアの今後が注目される。

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