往還日誌(336)
■10月2日、木曜日、雲のある晴れ。
朝、洗濯3回、コインランドリーで乾燥、その間、釈迦堂を散歩。
2日連続のセミナーだった。量子コンピューターとAI。
たいへん興味深いが、疲れた。
『IDEE 』179号、『東国』170号を、各氏へ送付。
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このところ、戦争系の映画を好んで視聴している。
先日は、アラン・チューリングの実話『イミテーション・ゲーム』(2014年)を観た。
チューリングをリーダーとする、英国の「ブレッチリー・パーク」のメンバーが、ドイツ軍の暗号機「エニグマ」(ギリシャ語で「謎」)の解読する話だが、私が興味をそそられたのは、暗号機そのものは完璧なのに、ドイツ兵の通信ミスが原因で解読されるという点だった。
毎日、同じ、天気の話とハイル・ヒットラーで始まる通信文から、解読の手がかりが得られる。
「ベノナ」と呼ばれるソ連暗号解読の極秘プロジェクトにおいて、解読は困難と言われたワンタイムパッド法(1回限りの暗号。今もワンタイム・パスワードの発想に引き継がれている)も、ソ連が、以前に使用したワンタイムパッド法のとあるページを再使用するという誤りを犯したため、米国の暗号解読者、メレディス・ガードナーによって、破られることになる。
ソ連のワンタイムパッド法も、ドイツ軍のエニグマも、仕組みそのものではなく、システムと人間とのインタフェースに問題が生じて、暗号が破られている。要するに、暗号の運用の仕方に綻びが出る。
この点がまず興味深い。
エニグマで、さらに興味深いのは、暗号解読できたという事実を、ドイツ軍にわからせないようにすると同時に、連合軍にも知らせない。
それで、チューリング達は何をやったかというと、暗号解読したドイツ軍の情報を「ブレッチリー・パーク」に集約して、秘密情報をベースに作戦立案の統計学的な分析を行って、全体として、連合軍が勝利するための情報を、別の出典を騙って、繰り返し、提供したのである。
つまり、暗号解読は、それだけでは有効に機能せず、全体的な作戦と、いかに効果的に統合するかが問題であることがわかる。
暗号解読の初期段階で、チューリングは、500人乗りの英国客船がドイツ軍のUボートの攻撃を受けるとわかっていて、放置する。
これは、その海域に英軍の爆撃機がいきなり現れたら、エニグマ解読が知られてしまうと説明される。
だが、どうすれば、暗号解読の事実をドイツ軍に知られずに、その客船を救い出せるか、という問題設定はなされない。これは、決して、解決不可能な問題ではないように感じた。
暗号の解読の歴史は、実に興味深く、米国の「ベノナ」プロジェクトで明らかになったのも、ソ連の大規模な米国内でのスパイ網の形成であり、米国の政策立案への影響力の行使である。
逆に言えば、ソ連軍の驚くべき優秀さである。逆は、ほとんど聞かれない。ソ連が公開していないだけかもしれないが。
暗号解読の歴史から、戦争を見ると、まったく別の顔が見えてくる。
ちなみに、暗号の最新状況は、量子暗号であり、日本政府も、これまで量子関連政策に3000億円ほど投資している。
内閣府によれば、量子政策の3本柱――量子コンピューティング、量子セキュリティネットワーク、量子センシング――のひとつに、量子暗号は入っている。
内閣府によれば、量子コンピューターでも、原理的に暗号解読できない量子通信を現在各国が競って研究開発しているという。
原理的に、暗号解読できないという、その中身を原理的に知りたいが、私が思うに、その暗号原理の運用の仕方に、盲点が入り込むような気がする。
映画『イミテーション・ゲーム』で、もう一つ興味深いのが、チューリングの同性愛行為を犯罪とする法律である。
これは、なんと、1533年のソドミー法まで遡る。1885年刑法改正第11条 によって「重大ではない猥褻行為(gross indecency)」という広範な罪が導入され、これにより、成人男性同士の同意の上の性的行為も違法となった。チューリングは、1952年に「gross indecency」の罪で起訴され、有罪判決を受けた。刑務所か化学的去勢(ホルモン療法)の選択を迫られ、彼はホルモン注射を選んだのである。
1967年の「Sexual Offences Act 1967(性的犯罪法1967年)」によって、イングランドとウェールズに限り「21歳以上の成人男性による同意のある私的な同性愛行為」が非犯罪化されるまで、この法律は有効だった。
そして、こうした同性愛行為を犯罪とする根拠は、聖書だった。
英国においても、キリスト教原理主義の発想は、脈々と存在していた(いる)ことがわかる。
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「ひとは、原子爆弾とその軍事的・政治的帰結について考えざるをえない。日本に対してそれが使用されたとき、思慮ある人々は誰しも、その使用が必要ではなかったことを知っていた。