往還日誌(395)
たとえばゾーランにとっては、政策目標をできるだけ円滑に達成するためにホークル(※キャシー・ホークル、ニューヨーク州の現職知事(2021年就任)。民主党所属)と実質的に協力することが望ましいかもしれません。しかしNYC-DSAにとっての中心的目標は、おそらく下からの大衆的主体性(mass agency)を構築することです。
ここでのポイントは、こうした戦略的な相違を道徳的に裁くことではなく、それをどう考えるべきかを探ることにあります。
このような戦略的矛盾が生じうるとき、私たちはそれにどう向き合い、矛盾点を最大限に調整していくにはどうすればよいのでしょうか。
スーマシー、現在ニューヨークにおける大衆的組織化は、どのような状況にありますか。ゾーランは、どのようなことを可能にできるでしょうか。具体的に言えば、行政はどのような行動を取りうるのか——それによって何万、あるいは何十万人ものニューヨーカーを動かすことが可能になるような行動とは何でしょうか。
スーマシー・クマール(NY州テナント・ブロックマネージング・ディレクター)「これがいちばんワクワクする部分です。
現在の大衆的組織化の状況について言えば、まだ道半ばです。ただ、今は何千人もの人々が『行動する準備ができている』と言い始めています。でもそれはまだ新しい動きです。
ですから、『大衆的基盤を築きたい』と言うすべての組織にとっての大きな課題は、それをどう実際に実現するのか、という問いを引き受けることです。行動したい人々はすでに存在しているのです。いま必要なのは、彼らをつかまえ、巻き込み、組織化し、さらに多くを求めるようにしていくことです。
ゾーランが大衆的組織化を拡大するために何ができるかについては、とても可能性があります。私が最もよく知っていて、もっとも考えているのはテナント(借家人)運動の分野です。
これは、行政ができることが非常に多く、そのすべてが、建物ごとに何千人ものテナントが組織化することと結びついて初めて現実になる、という好例です。
たとえば、修繕が実際に行われているかを確実にするための建築基準の執行(コード・エンフォースメント)。ゾーランは、彼が掲げてきた政策アジェンダ——積極的な事前的監督の強化や、家主から実際に罰金を徴収すること——を実行できます。しかしその一方で、現場のテナントたちが、自分たちの建物で組織化し、それを活用できるようになるのです。
さらに一歩進めると、いまニューヨーク市では、家主たちが何十年も人々の住まいを賭博のように扱ってきた結果、悪い投機やリスクの高い経営判断のツケを払う形で、建物が差し押さえ(フォークロージャー)に入るケースが増えています。
もしそのような建物でテナントが組織化し、『ここを最高値をつけた投機家に売り渡す必要はない』と主張できるなら……。
市政レベルで築いてきた力を活用し、市が建物を取得したり、あるいはテナントが建物を取得できるようなプロセスを市が後押しすることも可能になります。
これは非常に刺激的です。なぜなら、それは行政だけの仕事ではないからです。テナント自身が主導しなければならないことでもあります。
それこそが大衆組織、テナント大衆組織の役割です。『さあ組織しよう』と呼びかけること。市レベルで築いた力を、建物や都市全体での組織化と結びつけて活用すること。
私たちが本当に望むこと——住宅の脱商品化、住まいをテナント自身の管理下に置くこと、実際に住みやすく手頃な住宅を確保すること——を実現するために、あらゆる権力のレバーを使うことができるのです。それは、行政トップダウンだけでなく、下からの運動とパートナーシップを組む形で可能になります。
もう一つ、より具体性に欠け、やや複雑な話ですが、ゾーランが州議会議員時代に提出した『Not on Our Dime』(私たちの金ではやらせない)法案(※)のことを考えていました。
※ニューヨーク州議会で提出された法案で、ニューヨーク州内の慈善団体(非営利団体)が、イスラエル占領地の入植地活動や国際法違反とされる行為に資金を提供することを禁止する法案。
彼が、多くの人が口にすることを恐れていた問題について声を上げ、一貫してその立場を維持してきたことが、有権者の一部を活性化させました。
現在、少なくとも左派のパレスチナ運動や市内のムスリム・コミュニティの間で飛び交っている問いは、『ゾーランが市長になった今、パレスチナ問題やパレスチナ運動の組織化に関して、何が違ってくるのか』ということです。
これは複雑な問題です。しかし彼がすでに示しているように、一定の原則については立ち上がる姿勢が期待できます。
たとえば抗議行動への対応の仕方、警察(NYPD)の対応をどう指揮・調整するのか。春や秋に大学が再開し、キャンパスで再びテント設営などの活動が起きた場合にどうなるのかは注目点です。
また、レトリック面での支持や、可能であれば『Not On Our Dime』やイスラエル国債からの資金引き揚げ(ダイベストメント)のような措置の後押しなどもあります。
すべてが市長の権限内にあるわけではありませんが、レトリックには一定の力があります」
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ダニエル・デンバーが提示した「権力の座に就いた左派と運動の中にいる左派とでは、置かれている位置の違いゆえに、戦略的志向が必然的に分岐する」。これは、かなり重要な論点である。
ここを対象化し、深く考えることなく、権力を握ったとたんに豹変したと批判するのはたやすい。
デンバーは「こうした戦略的な相違を道徳的に裁くことではなく、それをどう考えるべきかを探る」と述べている。
これを考えるとき、問題解決の実践的な視点や制度的な視点も検討されるはずである。
さらに、興味深いのは、現在日本の都心のマンションが、NYCの後を数十年遅れて、投機対象として高騰しているという現実があることである。
これに対する解決のヒントも、「そのような建物でテナントが組織化し、『ここを最高値をつけた投機家に売り渡す必要はない』と主張できるなら」と、建物ごとの組織化という方法論を述べている。
さらに、イスラエルと特に関係が深いNYCは、イスラエル国債からの資金引き揚げ(ダイベストメント)のような措置も選択肢としてあると述べている。イスラエル国債は、米国において、もっともポピュラーな国債の一つで、ユダヤ系市民が、子供の誕生日のプレゼントにイスラエル国債を買うほどである。
イスラエル国債を巨額に買っているのは、ニューヨーク州やフロリダ州、イリノイ州、インディアナ州、テキサス州などがあり、この他にも、公的年金基金や財務局、大学まで保有している。
米国は、国家をあげて、イスラエルを経済的に支えているのである。もちろん、選挙の時に巨額の選挙資金が、AIPACなどから、上下両院の議員のほとんどに流れている。